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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)559号 判決 1955年11月24日

上告人 西潟秀房

被上告人 西潟ギン

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

原審が証拠によつて適法に認定した事実を総合すると、結局民法七七〇条一項五号にいわゆる“婚姻を継続し難い重大な事由があるとき”に該当する、と当裁判所でも判断することができる。原判決では被上告人側にもいくらかの落度は認められるが、上告人側により多大の落度があると認めているのである。かような場合に被上告人の離婚請求を認めても違法とはいえない。その余の所論は、原審の認定に副わない事実を前提として原判決を非難しているものであつて、上告理由として採ることを得ない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

○昭和三〇年(オ)第五五九号

上告人 西潟秀房

被上告人 西潟ギン

上告代理人太田寛ノ上告理由

第一点 被上告人ガ第一審以来離婚請求ノ原因トシテ陳述スル処ノ要旨ニヨレバ、(イ)上告人モ被上告人モ共ニ郷里ハ同ジデ大正三年十二月中結婚シ同五年三月二十九日其届出ヲシタモノデ昭和十九年十一月末郷里ニ疎開スル迄東京都荒川区日暮里四丁目九七二番地ニ世帯ヲ設ケテ生活シ其間ニ五女一男ヲ儲ケ長女、三女、四女ハ生後間モナク死亡シ現在ハ二女京子、五女スガ子、長男秀一郎ノ三人デアル、(ロ)結婚当時上告人ハ寒天ヤ菓子ノ製造販売ヲ業トシ被上告人ノ懸命協力ニヨリ商売モ順調ニ発展シ昭和二年中ニハ都内足立区本町二丁目先ニ宅地四百坪其地上建物三棟十一戸ヲ買入レ所有スルニ至リ昭和十九年十一月郷里ニ住宅ヲ新築シテ疎開シタ、(ハ)上告人ハ昭和六年三月頃結核療養ノ為メ神奈川県茅ヶ崎ノ別荘ニ転地中附添看護婦朝間千代ナルモノヲ懐胎、流産サセタ、亦同年十二月中同県鵠沼ニ転療中附添看護婦佐藤マサト関係ヲ為シ被上告人ニ侮辱ヲ加ヘタ、(ニ)疎開中昭和二十年六月末頃被上告人トスガ子ガ農作仕事カラノ帰リガ遅レタ処之レヲ激怒シ玄関先デ被上告人ヲ乱打シ次ニ同二十二年六月二十九日実家デ生鯖ヲ食ベテ居ルト云フタ処上告人ハ贅沢ヲ云フトシテ憤怒シ被上告人ヲ頭部、胸部等数十回モ殴打、足蹴シテ昏倒サセ全治五十日ヲ要スル打撲傷ヲ負ハセタ、(ホ)更ニ同二十三年三月三日京子、スガ子ノ縁談が常ニ政略的儲ケ本位ノ考ニ禍サレテ不調ニ終テ居ルコトニ就キ上告人ニ反省ヲ促シタル処激昂シ被上告人ヲ玄関先ニ突飛シ殴打ヲ加ヘタ上奥六畳ニ引摺リ上ゲ三十数回モ打擲シタ為メニ激痛、眩暈、呼吸困難ニ陥リ同月六日隣村加茂村診療所室岡医師ノ治療ヲ受ケタガ左肋骨二本ニ亀裂ガ出来タトノ診断デアツタ、(ヘ)被上告人ハ同二十六年十一月ヨリ後記ノ通リ長男秀一郎ノ為メ精神病治療ノ目的デスガ子方ニ居住スルニ至リ其後京子モ上京シ現在ハ上告人一人ガ郷里デ農耕シテ居ルガ同二十九年四月上旬所用デ上京シテ来タ時上告人ノ造ツタ荷造板ヲ秀一郎ノ割ルニ任セテ傍観シテ居タトテ激昂シ被上告人ヲ突飛シ尚暴力沙汰ニ及バントセリ、(ト)秀一郎ノ病気治療ノ目的ノ下ニ同二十六年十一月ヨリ現住所ニ居住スルト共ニ上告人ノ虐待ヲ免ルルガ為メニ郷里ニ帰ラザルコトヲ決意シテ居ル、然ルニ上告人ハ其間僅カニ現金五千円、米三俵三斗ヲ送ツタニ過ギナイ、要スルニ上告人ハ其性酷薄頑迷、猜疑妬心強ク封建的ニシテ被上告人ハ奴隷ノ如ク虐待笞使セラレ来ツテ居ルノデ老境ニ入ツテ現在到底堪ヘ得ラレナイカラ敢テ離婚ヲ訴求スルト云フアリ(訴状参照)。而シテ上告人ハ被上告人ノ訴因(イ)ノ事実ハ之ヲ認メ、但昭和十九年五月カラ郷里ニ疎開スルニ至ル迄現在被上告人ガ居住シテ居ル家ニ一家ガ住テ居ダ、(ロ)ノ事実ハ之ヲ認メル、但昭和三十年四月四日上申書ニヨリ都内足立区本町二丁目先ノ宅地四百坪及地上建物三棟十一戸ハ結婚前ヨリ相当ノ家屋ヲ所有シ且菓子商並ニ株式売買等ノ利純ニヨリ買受ケ所有スルニ至リシモノニシテ被上告人ノ寝食ヲ節シテ協力ヲ得タル結昌物デハナイ、(ハ)ノ事実ハ認ムルモ朝間千代ヲ懐胎、流産セシメタトノコト、佐藤マサト関係シタトノ点ヲ否認シ、(ニ)ノ事実ニ付テハ昭和二十年六月末及同二十二年六月二十九日数回打ツタコトハアルガ其他ノ事実ハ否認ス、尚ホ其原因ニ付テノ釈明トシテ前者ハ当時食糧事情逼迫ノ為メ夕方遅ク迄野良ニ居ルコトハ免角ノ疑ヲ受ケル惧モアリ常々注意ヲ与ヘテ置キタルニ不拘帰宅ガ遅レタルニ叱責シタル処被上告人ハ却テ上告人ガトラツク内ヨリ捨テラレアリシ薯苗ヲ恰モ掠メ来リシ如ク悪罵スルニヨリ止ムナカリシコト、後者ハ上告人ヲ甲斐性ナシト罵倒侮辱スルニヨリ数回打タ丈ケ、被上告人ノ主張ハ虚構デアルト反論シ乙第十二号証、第十九号証ヲ提出、(ホ)ノ事実ニ付テハ上告人ハ昭和二十四年三月三日(二十三年ニ非ス)被上告人カ戸外ニ出ヨウトスルノテ六畳ノ部屋ニ引入レ数回打ツタコトアルモ其他ノ事実ハ否認ス、(ヘ)ノ事実ハ大体ニ於テ長男秀一郎ノ精神病治療ノ目的で上京、郷里ニ帰ラヌコト、金又米ヲ送ツテ居タコト、其余ノコトハ不知ダト争ヒ要スルニ被上告人ハ事実ヲ針小棒大ニ記述シ離婚ヲ求ムルハ上告人カラ云ヘバ之ヲ強行セントスルガ為メノ手段ニ過ギヌコトト思ハルルト云フ。

先般被上告人カラ提出シタ離婚調停申立書ニ記載ノ事由ガ本訴原因タル事実ト相違スルコトカラスルモ明瞭デアル。上告人ハ戦争ニヨリ物質上多大ノ打撃ヲ受ケ到底東京ニ於テ戦前ノ如キ安楽ナ生活ヲ為シ得ル見込ハ無イガ故ニ好ム所デハナイガ止ムナク郷里ニ於テ不慣レナ百姓ヲ続ケテ居ルノデアツテ此不幸ニ対シ被上告人ハ妻トシテ協力スベキニ不拘専ラ上告人ノ無能ノ結果トシテ吹聴シ無断上京シテ居ルノデ被上告人コソ生来ノ我儘者デアリ反省心ニ乏シキ過去ノ裕福ナ時代ヲ夢ミテ居ルノデアル。両者ハ結婚以来既ニ四十年、六十歳ヲ越ス老齢デアル。其長イ婚姻生活ニ於テ多少ノ紛争ガアツタトシテモ所詮世間日常ノ夫婦喧嘩デアリ夫婦関係ノ基礎感情ヲ破壊スル程ノモノデナク婚姻ヲ継続シ難キ重大ナ事由ガアルモノデナイトノ趣旨ヲ答弁シ証拠トシテ乙第一乃至四号、第五号ノ一、二、第七号ノ一、二、第八、第十号ノ一、二、第十一号乃至第二十二号ヲ提出シタリ。

然ルニ第一審裁判所ハ原因アリトシテ被上告人ノ請求ヲ認容シ上告人ニ敗訴ノ判決言渡シタリ。而シテ其理由トシテ其冐頭ニ其原因トスル所ハ畢竟婚姻ヲ継続シ難イ重大ナル事由ニ逢着シテ居ルト云フニ解サレル事実デアルト為シ、進ンデ証人西潟金作、佐藤福栄ノ証言ニヨレバ此老夫婦ハ若イ頃ハ別段不和デナカツタラシイ、昭和六年頃上告人が附添看護婦ト関係ヲ持ツヨウナ不都合ガアツタガ夫婦ノ仲ニひびガ入レル程ニモナラズ落着シタラシイ、深刻ナ不和トナルニ至ツタノハ一家ガ疎開暮シニ入ツテカラノ事ノヨウデアル、証人西潟京子、西潟スガ子ノ証言ヲモ綜合スルニ疎開先デハ屡々口論ガ起キ上告人ハ世間ニままアル夫婦嘩喧ノ程度ヲ越ヘテかなり手荒ナ乱暴ヲシタ、被上告人モ戸外ニ飛出シタリ悲鳴ヲアゲタリ親戚ヘ行ツテ喋ツタリスル、其処ヘ長男秀一郎ノ精神病ガ昂ジタトハ云ヘ被上告人ガ上告人ニ相談モセズニ東京ニ出テ仕舞テ別レ別レニ暮スヨウニナツタモノダカラ総テハ取リ返シノ出来ヌ破目ニナリ現在デハ感情ノもつれハ到底解ケル見込ナク相互信頼ノ心持ナドハ微塵モ残ツテイナイヨウニ見受ケラレル、ソレデドウシテ此様ナ冷イ不和ニナツタカト前掲証言ト上告人提出ノ乙号証ヲ仔細ニ照会シテ見ルニ原因ノ抑々ナルモノハ性格的ニ融和シ得ナイ事ト考ヘラレル、ソレハ性格ガ違フト云フヨリハ寧ロ双方ノ性格ガ同ジク凡ソ気持ノ上ニ寛容ヲ欠クト云フ事デアル云々次ニ原因トナツテ居ルノハ娘ノ婚期ノ過キテ居ルノニ良縁ガナイ、長男秀一郎ガ精神病デアリ時々悪化スル事ガ堪ヘ難イ苦痛デアル重荷デアルコト、ソレニ以前ハ相当ノ生活ヲシテ居タモノガ戦争ノ為メ山奥ニ疎開シ不馴レナ畑仕事等ノ労働デ心身共ニ疲レ切ツテ仕舞ツタ事ガ夫婦ノ気持ノ上ニ苛立チニ一層ノ拍車ヲカケタ様ニ見エル、此ガ原因ト考ヘラルルヨリ他ニナイ、故ニ上告人タケヲ責メルコトモ出来ヌケレ共上告人ノいたらぬタメノミデ不和が将来サレタモノデナク民法所定ノ離婚原因タル婚姻ヲ継続シ難イ重大ナ事由ニ該ラヌトハ云ヘ得カラ被上告人ノ請求スルモノナル旨ヲ判示シタリ。

然レ共右判決ニハ全部不服ナリトシテ上告人ヨリ控訴ヲ提起シ此控訴事件ニ付東京高等裁判所ハ昭和三十年四月廿七日控訴棄却ノ判決ヲ為シタリ。而シテ其理由中ニ於テ、(1)成立ニ争ヒナイ乙第四号証、第一〇号証ノ一、二、第一一号乃至第一三号証、第一六号、第一七号証及第十九号証、原審証人西潟京子、同佐藤福栄及同西潟金作ノ証言、当審証人西潟スガノ証言並ニ当審ニ於ケル控訴人本人ノ供述スルト次ノ様ナ事実ガ認メラレル、「控訴人ハ昭和六、七年頃神奈川県ニ於テ病気療養中附添看護婦ト情交関係ヲ結ンダコト」、「同二十二年六月頃被控訴人トスガガ不慣ノ為メ芋苗ノ植付ケニ手間取リ帰宅ガ遅レタコトガアツタ云々被控訴人ヲ何回モ殴打シタコト」、「同月二十九日被控訴人ガ実家デハ一本五十円ノ鯖三本モ買ツテ食ベテ居ルト云ツタ処云々被控訴人ヲ引倒シテ何回トナク殴打シ足蹴シタコト」、「同廿三年三月二日被控訴人ガ控訴人ガ自分バカリ金ヲ使テ居テ京子ヤスガヲかまわナイ、同人等ノ縁談ガ調わナイノハ控訴人ガ余リ功利的ニ扱フ為メデアルト控訴人ヲ責メタ処云々被控訴人ヲ引ずリ込数回殴打シ云々加茂村ノ室岡医師ノ治療ヲ受ケタコト」、「昭和二十九年四月控訴人ガ所用アツテ上京シタ際秀一郎ガ作ツタ板材ヲ打チ割ツテ仕舞タ処云々被控訴人ヲ突キ飛バシ暴行ニ及ンダコト」、「被控訴人ガ控訴人ニ無断デ上京シ別居スルニ至ツタコト」、「秀一郎ノ精神病ノ治療ヲ受ケル為メモアツタガ控訴人ガ附添看護婦ト関係ヲ生ジタコトヲ遠因トシ夫婦間ノ感情ガ次第ニ疎隔シ、控訴人ガ前記ノ様ニ度々被控訴人ニ対シ暴行ニ出テタ為メデアツテ爾来控訴人ハ控訴人カラ何回トナク奴奈川村ニ帰ツテ同居スル様ススメラレテモ絶体ニ之ニ応ジ様トセズ却テ家庭裁判所ニ対シテ離婚ノ調停申立ナドシテ婚姻関係ノ継続ハ最早望メナイ状態ニアルコトハ認メラレルト判示セラレタリ。然レ共右判示ハ民法第七七〇条第五項ノ法意ヲ正当ニ解釈シタル結果トシテノ重大ナ事由トナラザルモノト信ズ。何ントナレバ控訴人ガ昭和三十年四月四日付上申書ヲ以テ上申シタル如ク被上告人ハ自己名義トナリアル被上告人居住ノ家屋(時価五百万円程度ノモノ)ヲ形実共ニ自己ノ所有ト為サンガ為メニ本訴ヲ提起シ其手段方法トシテ夫婦間ニハ有勝チノ三回ニ過キヌ上告人の殴打行為ヲ針小棒大ニ記述シ、殊ニ弍拾数年前ノ女トノ性交関係ヲ持チ出シテ紛争ノ誘因トナシタルコト、或ハ娘京子ト謀リテ上告人ノ知ラザル間ニ家財道具ヲ持チ出シテ手中ニ納メ、金庫内ヨリ現金又株券、貴金属等ヲ持チ出シ之レヲ他ニ転売シ若シクハ自己ニ所持シ居リ之等ノ被害額ハ数拾万円也ト云フ事実、被上告人ハ京子ト謀リテ上告人ニ害意ヲ加ヘンコトヲ予備シ居リシ事実(乙第一四号証ノ手紙)、其他上告人ヲ遺棄シタル事実等ヲ詳細ニ説示シ重大ナル事実ナリヤ否ヤノ判断資料ヲ提供シ原審裁判所モ斯ル一切ノ資料ヲ判断ノ資料トシタルモノト思料ス。若シ然リトセハ被上告人自身ガ上告人ニ数多ノ不正行為ヲ為シ来リシ事実ハ明カナリト言ハザルベカラズ。従テ自分ノシタル不正ノ行為ヲ棚上ゲシ上告人ヲ責ムルガ如キハ信義ノ観念カラ見テモ認容シ得ザル不当ノ行為ニシテ婚姻ヲ継続シ難キ重大ナル事由ト云フコトヲ得ザルコトニ帰シ破毀ヲ免レズト信ズ。

第二点 上告人ハ性来酒、煙草等ヲ呑マズ趣味トシテ書道、俳句等ヲ好ミ約束等ヲ違背スルガ如キコトヲ非常ニ嫌ヒ未ダ嘗テ他人ト係争ヲ起シタルコトナシ。斯ル信念ヲ有スルハ自分ノ生家ハ代々郷里ニ於テ正直者トシテ村民ノ尊敬ノ的トナリ又本家ノ如キハ代々庄屋トシテ四百年来ノ旧家デモアリ現在ノ老主ハ曽テ前後四拾余年間村長トシテ近郷ハ勿論、県内ニ於テモ多少人ニ知ラレタル家柄デモアツテ上告人ノ身辺ニ何ニカノ間違ノ起ルコトハ非常ニ面目ヲ失フ事トモナリ、従テ家名ヲ汚スガ如キ事アリテハト常日頃注意ヲ怠ラズ被上告人ハ勿論、娘等モ能ク知ツテ居ル筈ナリ。例ヘハ芋苗ノ植付作業ノ為メニ時刻ガ多少遅レタリトテ通常ノ時世ナラバ怒ル筈モナク又怒ラルルユワレモナキモノナルモ当時ハ疎開者ニ対スル一般農家ノ観察方ガ悪ルク為メニ嫌疑ヲ受クルコトアルヲ怖レテ注意ヲ促カシ置キシモノヲ帰ル時刻ノ遅延ヲサレタノデアルカラ最大ノ注意ノ与ヘタ処ガ被上告人ハ済マナカツタトノ一言デ事ガ終ルノニ上告人ニ対シ芋苗二束ヲトラツクカラ掠メ来タデハナイカ言ハレタノデ其言動ヲ怒リ被上告人ヲ殴打シタリ。又生鯖ノ時ノ場合モ被上告人ハ上告人ヲりんしよくと罵リタルニ起因シ上告人ヨリ手ヲ出シタルモノニ非ズ。要之ニ被上告人ノ本訴ノ離婚原因トスル事体被上告人ノ意中ヨリ出テタル誘因行為ヨリ起因スルモノナレバ其一半ノ責任ハ上告人ニ於テモ負担スベキモノナレ共其大半ノ責任ハ被上告人ニ於テ負フベキモノナリ。果シテ然リトセバ自己ノ責任ニ於ケル行為ガ夫婦ノ生活ヲ破綻スル原因ヲ造リ上ゲタルモノナル以上之ヲ理由トシテ離婚ヲ請求シ得ザル筋合ナリトス。然ルニ原審ハ斯ル被上告人ノ有責行為ヲ看過シテ上告人ノ負フベキ部分ノミヲ捕ヘ以テ判定ノ資料ト為シ婚姻ヲ継続シ難キ重大ナル事由アリト判示シタルハ明カニ民法第七七〇条第五項ノ解釈ヲ誤リタルカ然ラズンバ理由ニ不備アリト信ズ。

第三点 婚姻ヲ継続シ難キ重大ナ事由トハ如何ナル事由ヲ云フモノナリヤ又或ル夫婦間ニハ重大ナル事由タル事項モ他ノ夫婦間ニハ重大ナル事由タラザル場合モアラン。斯ル同一事項ニ対シ裁判所ハ自由ニ断定シテ能キモノナルカ或ハ一定ノ判定基準ナルモノ存スルモノナリヤ必ズシモ明瞭ナラザルモノノ如シ。然シ本件ノ場合ニ於テハ訴求原因ノ外ニ夫婦間ノ生活関係、性格、教育程度、親族関係、資産関係、家族関係、離婚ニヨリテ及ボス影響等一切ヲ判定資料トシテ利用サルベキモノトス。而シテ以上ノ資料ニヨリテ婚姻ヲ継続シ難キ重大ナル事由アリト認定シタルモノトセバ上告人ノ有スル都内足立区本木町二丁目先ノ宅地四百坪ノ地上ニアル建物三棟拾壱戸ヨリ上ル家賃ハ被上告人及子女ニ於テ取立テ生活費ニ、又被上告人肩書地所在ノ建物ハ間借等ニヨル収益ヲ全部取立費消シ上告人ニ於テハ一厘ノ収入モナク郷里ニ一人居住シ七十歳ノ老躯ヲ以テ農耕ニ当ラザルベカラザル立場ニ置カレ現在ハ疲労甚タシク心身共ニ寒心ニ堪ヘザル状態ナリトス。一面子女等ノ将来ハ如何様ニ発展シ行クモノナリヤ父トシテ家族的生活ヲ被上告人ノ私慾ノ目的ニ供セラレ残念デアルノミナラズ斯ル事体ノ発生スルコトヲ予見シツツ或ハ予見シ得ルニモ不拘原審ハ婚姻ヲ継続シ難キ重大ナル事由アリト認定セラレタルハ判定ノ基準ヲ超越シテ為サレタル不法アリトス。

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